指4本を切断「母国がもっと豊かだったら…」 タイ急成長、不法就労生む(西日本新聞)

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 現れたのは、タイ語がほとんど話せない、貧しいミャンマー人の若者だった。「僕は無知だった。自分の権利も知らなかった」。タイ中部サムットサコン県にある非政府組織(NGO)「移民労働者権利ネットワーク(MWRN)」の事務所。ナン・ウィンさん(28)は、タイで不法就労したことを深く悔やんでいた。

⇒【地図】タイのサムットサコンのある場所

 実家の農業では食べていけず、ブローカーの仲介で密入国。中部の養鶏場で約3万羽を1人で世話した。午前7時から午後5時まで働き、2時間休憩して、また翌朝5時まで働く毎日。

 「オーナーに『寝るな』と言われ、鶏舎の横で朝まで過ごした。1羽死ぬと罰金なので、ずっと見張らないといけなかった」

 3年8カ月働いて、日給は最低賃金以下の750円程度。身分証はオーナーが保管し、外出は週1回監視付きで市場に行くだけ。2016年6月、市場で手に入れたスマートフォンでMWRNに「助けて」と送信し、14人が救出された。

指4本を切断「母国がもっと豊かだったら…」

 「不法入国者の弱みにつけ込む業者は後を絶たない」。MWRNのコーディネーター、スタシニさん(48)は言う。背景にはタイ特有の事情がのぞく。

 以前は出稼ぎ労働者の供給国だったが、1990年代以降は東南アジアの生産拠点として海外から投資が集中。日系自動車会社などの雇用が急増し、0・9%(16年)の低失業率と、中国に近い高賃金を誇る。

 あおりを受けたのが高給のタイ人を雇えない中小業者。日本など先進国へ渡る金のない貧しい不法入国者に目を付けた。陸続きのミャンマーやカンボジアから100万~200万人が流入しているともいわれ、低賃金で劣悪な労働環境に甘んじている。

 サムットサコンで通訳をしているミャンマー人のトゥン・リンさん(34)もその一人。漁船で17年間過酷な労働を強いられた。「タイ人は銃を手に命令するだけ。ミャンマー人が朝から晩まで働いた」

 巻き上げ機に挟まれて右手の指4本を切断したが、治療を受けたのは3日後。提訴して補償をもぎ取った。「タイ経済を底辺で支えているのは私たち。母国がもっと豊かだったら…」と目を伏せた。

「涙にまみれたチキン」

 タイ政府も手をこまねいているわけではない。

 13年以降、外国人の労働許可手続きを簡素化して合法的な入国を促し、雇用主の罰則を強化。15年には漁業者の労働改善を求める欧州連合(EU)からの水産物輸入禁止圧力もあって、改革に本腰を入れた。

 ただ、現場には汚職がはびこり「対応は賄賂次第」(不法滞在経験者)。労働省幹部は「法律を機能させることが一番大事だ」と打ち明ける。

 日本はタイの水産物輸出先(金額ベース)2位。鶏肉はトップだ。MWRNのアンチョー副会長(52)は言う。「日本の消費者は食材がどんな現場で生産されているのか関心を持ってほしい。涙にまみれたチキンを食べないためにも」

西日本新聞社




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