北朝鮮が示唆する「電磁パルス攻撃」という脅威 それは本当に「全米を壊滅」させる力があるのか – WIRED.jp

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北朝鮮が示唆した「電磁パルス(EMP)攻撃」への懸念が増している。米上空で実行されれば送電網が破壊され、1年以内に米人口の最大90パーセントが死亡するという指摘もあるが、こうした予測はどこまで本当なのか。脅威の実態に迫る。

TEXT BY BRIAN BARRETT

EDITED BY CHIHIRO OKA

WIRED(US)

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PHOTO: KNS/KCNA/AFP/AFLO

北朝鮮が示唆した「電磁パルス(EMP)攻撃」への懸念が増大している。その理由を理解するのは簡単である。EMPの影響を研究してきた専門家たちによると、まさにこの世に終わりのような事態がもたらされる可能性がある。送電網が破壊され、1年以内に米国の全人口の最大90パーセントが死亡するというのだ。

北朝鮮政権は2017年9月、EMP攻撃の恐怖について警告してみせた。どうやら北朝鮮は、攻撃を成功させるだけの能力を備えているようなのだ。

その原理を大まかに説明すると、高層大気圏で核兵器を爆発させるとEMPが発生し、クルマから街灯まであらゆる電子機器が損壊する恐れがある。送電網そのものも被害を受ける。しかしその程度については、誰に聞くかによって答えが変わってくる。

冒頭で触れた「90パーセント」という恐るべき数字は、08年の議会公聴会で共和党下院議員(当時)のロスコー・バートレットが示したもので、EMPの権威でもある物理学者ウィリアム・グラハムも支持した。バートレットはこの数字をウィリアム・フォースチェンの『One Second After』というSF小説から引用した。

電磁波が襲ってきた場合、その発生源が北米上空で起きた水素爆弾の爆発だろうが大規模な太陽フレアだろうが、日常生活には確実に影響が生じる。ただ被害の大きさは不明だ。少なくとも北朝鮮からの攻撃に関して言えば、電磁波が実際にどのような事態を引き起こすのかよくわからないという事実は、われわれの不安を完全には消し去らないにしても、ある程度は和らげてくれる。

大停電か破滅か

まず、EMPが送電網に影響を与える可能性は低いということを理解すべきだ。電磁波攻撃の恐怖を叫ぶ人たちは、人口のほとんどが死に絶えると本気で信じている。一方で、そんなものはSFの世界の物語に過ぎないと切り捨てる意見もある。

しかし、両者の中間にある見方を忘れてはならない。重要なのは、基礎科学においては意見の不一致はほとんどないという点だ。

実際、米国とロシアは歴史上、これを証明してきた。米国は1962年、太平洋上空386kmで「スターフィッシュ・プライム」として知られる1.4メガトン級の核実験を行なった。爆発で生じたEMPによって1448km離れたハワイで数百の街灯が消えたほか、電話にも影響が出た。ロシアも同時期にカザフスタンで核実験を行なったが、482kmにおよぶ通信回線の混乱などが発生したという。証拠も残っている。

米国へのEMP攻撃の脅威をめぐる議会委員会のメンバーで、この分野の著作もあるピーター・プライは「EMPの危険性を理解するために高高度核実験をする必要はない」と言う。プライは地下核実験やEMPシミュレータから得られたデータはすべて、壊滅的な状況が起こる可能性が高いことを示唆していると指摘する。

プライは「クルマを運転中にラジオをつけていて、高圧線の下を通ると音が消えるが、電線の下を抜けるとまた聞こえるような経験をしたことがあると思います。これはラジオに障害を起こす電磁場を通過したわけです」と説明する。

「その電磁場が、例えば10億倍の強さだったとしましょう。何が起きるか想像するのにアインシュタインである必要はありません。ラジオが一時的に聴こえなくなるだけでなく、完全に壊れてしまいます。クルマのほかの電子機器も同様です。こうしたことが局地的ではなくアメリカ全土で起こると想像してみてください」

科学的な根拠はない?

プライが参加していた委員会はEMPの脅威について調査しており、08年には200ページを超えるレポートを提出した。プライもこの問題に関して積極的に発言している。しかし特に北朝鮮絡みでは、EMPの影響に懐疑的な見方も依然として多い。国防総省と国土安全保障省が予算を申請しなかったため、委員会の業務は17年9月30日をもって終了した。

軍備管理不拡散センター上席研究員のフィリップ・コイルは、「北朝鮮が行なった大型核弾頭の発射実験については懸念しています。しかし問題なのはEMPではなく、核弾頭の大きさです」と言う。コイルはローレンス・リバモア国立研究所で10年にわたり核兵器を研究したほか、ミサイルなどの運用実験・評価を担当する国防次官補も務めている。

彼はEMPも問題となりうることを認めている。「キャリントン・イヴェント」として知られる1859年の太陽嵐による電磁波が再び発生すれば、大惨事が起こるだろう。ただ、EMP委員会が警告したような核爆発による電磁波の影響については懐疑的だ。

コイルは「EMPの脅威を叫ぶ人たちが、あのような考えをどこから引っ張り出してきたか知らないが、彼らの議論には賛成できません」と言う。「ああいった数字には科学的な根拠がないのです」

オバマ政権でエネルギー管理担当の国防次官補を務め、現在は無党派のシンクタンクである新アメリカ財団のシニアアドバイザー、シャロン・バークは「EMPが広範囲にわたって電子機器を破壊するということは証明されていません」と話す。「そうしたことが実際に起こるという証拠は何もないんです」

プライはEMPなどSFだという意見を「否定的なことばかり言うばか者」と切り捨てる。しかし、コイルやバークなど電磁波攻撃に懐疑的な人びとも、科学の大原則を否定しているわけではない。バークは「核兵器が使用されればさまざまな周波数の電磁波が生じるし、なかには危険なものもあります」と言う。「米軍は冷戦時代から使われているものを中心に、こうした電磁波から身を守るための装備品を所有しています」

何十年も昔に行われた実験とシミュレーションの結果は、実際に起きることとは一致しないだろうというのが、懐疑論者たちの議論だ。問われるべきは、北朝鮮が合衆国上空で核兵器を爆発させる能力があるかどうかではない。攻撃を仕掛ければ米国との全面戦争に突入することは確実なのに、金正恩は効果がはっきりしない作戦を実行に移すリスクを取るかというのが問題なのだ。「もし米国と戦争をする気で敵に最大限のダメージを与えたいなら、絶対に確実な方法を取るでしょう」と、バークは指摘する。

北朝鮮にとっての高いリスク

北朝鮮がEMPを使って米国を攻撃するなら、とてつもなく高いリスクを負うことになる。しかも結果は未知数で、仮に全米の電力網の大半を破壊できたとしても反撃は免れない。軍の装備は強化されているし、仕返し攻撃は北米以外の場所からも行われるだろう。

シンクタンクのランド研究所で非対称脅威を専門にするブルース・ベネットは、EMPの効果を試そうという試みだけで米軍は行動を起こしかねないと指摘する。「北朝鮮の外相が最近、ミサイル発射能力があるということを証明するために、太平洋上で核兵器を爆発させると脅しをかけました。EMPはさておき、そんなことをしようものならアメリカが反撃するのはほぼ間違いないでしょう」

この種の挑発は金正恩に関しては考えにくい。これまでの行動から判断するに、この男は普段は偉そうに振る舞ってはいるが、境界線がどこにあるかは理解しており、一線を越えたことはない。彼の目的は政権を維持することだが、米上空で核兵器を爆発させれば、北朝鮮の崩壊はほぼ確実となる。

こうした不確定要素すべてを考慮しても、EMPの脅威を巡って頭に入れておくべきことは不明確だ。送電インフラの強化に向けて長年にわたり投資を行ってきたのは、ある程度は理に適っているのだろう。しかし、たった一度のEMP攻撃で全人口の9割が死に絶えるという見出しは、真逆の結果を示唆している。

コイルは「わたしの知る限り、核兵器の危険性や北朝鮮との核戦争は非常に大きな脅威です」と言う。「しかしEMPは、単に注意をそらさせるものにすぎません。なぜこの話題を取り上げ続けるのか分からないのです」

よくある結論だが、一番いいのは真ん中あたりで話を落ち着かせることだろう。

ジョージ・ワシントン大学のサイバー・国土安全保障センター所長のフランク・シルフォは、「状況を最も的確に表現すると、(EMP攻撃は)起きる確率は低いけれども、実際に起きれば非常に重大な結果を招くと言えます」と語る。だからこそ、北朝鮮の封じ込めに向けた国際的な協力に加え、家庭や宇宙で予防措置を取ることによって「事前の備えをしておくのが賢明なのです」

プライは反対だ。彼は最近行われた議会公聴会で、EMP攻撃を巡る議論をかなり簡潔にまとめた発言をした。まさに、反論も証明もできない一言だ。

彼はこう言ったのだ。「北朝鮮が実際に攻撃を仕掛けてくるその日まで、人々はEMPの脅威などありそうもない話だと言い続けるのでしょう」






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