「海洋強国」 官民一体で 中国・海南島 南シナ海での漁に補助金 3島ツアー 領土意識醸成 – 西日本新聞

Home » 中国 » 「海洋強国」 官民一体で 中国・海南島 南シナ海での漁に補助金 3島ツアー 領土意識醸成 – 西日本新聞
中国, 南シナ海 コメントはまだありません



 年間約5千万人が観光に訪れる中国最南端の海南島。「中国のハワイ」と呼ばれるリゾート地は、中国が南シナ海の実効支配を進めるための拠点でもある。習近平指導部は10月の共産党大会で「海洋強国」建設を目標に掲げた。先月、その最前線とも言える島を訪ねた。
 (海南島・川原田健雄)

 熱帯の焼け付くような日差しの下、真っ黒に日焼けした男女が忙しく行き交う。島南部の海南省・三亜市街から西へ車で約1時間。島最大の崖州漁港は水揚げ直後の買い付けでにぎわっていた。

 周辺の三つの港を統合して昨年8月に開港した同港は、最大800隻が停泊できる。岸壁に並ぶ漁船は、中国がフィリピンと領有権を争う南沙(英語名スプラトリー)諸島や、ベトナムと対立する西沙(同パラセル)諸島にも半月から2カ月かけて漁に出るという。一見、日本と変わらない漁港だが、港内には中国国旗を掲げた船がずらりと並び、ものものしい雰囲気を醸し出している。

 「大きな船を見たいなら案内するよ」。小型船の漁師(42)から声を掛けられた。船に揺られて約20分。港の奥に着くと、大型船約20隻が隠れるように停泊していた。普通の漁船と違い、上部に赤い銃のようなものが付いている。「高圧の放水銃さ。ベトナムやフィリピンの船を追い払う時に使うんだ」。漁師が誇らしげに胸を張った。

 これらの大型船に乗り込むのは「海上民兵」だ。彼らは軍人ではなく漁民だが、正規軍の下で基礎的な軍事訓練を受けているとされる。日頃は南シナ海で漁をしながら、外国漁船と遭遇すると中国当局の警備艇などと連携して「主権を守る任務」に当たるという。

 2013年には国家主席に就任したばかりの習近平氏が海南島の漁港を視察し、民兵を激励する様子が報道された。習指導部は民兵支援を強化しており、高圧放水銃付きの船も政府支給とみられる。

 政府の支援は海南島の一般の漁民にも及ぶ。「南沙や西沙に行く船は、操業日数に応じて燃料費補助が支給される」。大型漁船の船主(45)が明かした。衛星利用測位システム(GPS)の設備にも補助金が出るという。地元政府の資料によると、年210日超の操業で約38万元(約650万円)を受け取った漁民もいた。

 中国は南シナ海のほぼ全域で権益を主張してきたが、オランダの仲裁裁判所は16年7月の裁定で「中国が主張する歴史的権利に法的根拠はない」と否定。補助金を出してまで南シナ海での漁を後押しする中国の姿勢には、既得権益化を進めて裁定を無効化したい指導部の思惑がにじむ。

   ◇    ◇

 南シナ海へ向かうのは漁船だけではない。三亜市からは西沙諸島を巡る観光船も出ている。

 地元旅行社によると、ツアーの対象は中国人のみ。観光船に宿泊しながら西沙諸島の3島を巡り、美しい海や釣りを楽しむという。毎月8~10便が出港し、料金は3泊4日で約5千元(約8万5千円)に上る。

 一番盛り上がるのは島に上陸する瞬間。「中国の領土の最南端に来たぞ」と叫ぶ乗客も少なくない。「愛国心を満たすことができるツアー」と旅行社の担当者はPRする。

 西沙諸島への観光船は13年4月に就航し、昨年までに約3万9千人が利用した。運航する約900人乗りの南海之夢号や、約500人乗りの長楽公主号は、大手国有企業が出資した会社がそれぞれ所有しており、ツアーは実質的に「国営」と言える。民間の経済活動の形を取って既成事実を積み重ね、中国の主権をアピールする狙いがあるのは明らかだ。領有権を争うベトナムからはツアーに抗議の声が出ている。

 こうした批判に神経をとがらせているのだろう。観光船が発着する三亜市の人工島は関係者以外、立ち入り禁止。島とつながる橋から写真を撮ることも警備員に止められた。

   ◇    ◇

 「争いの海」に出る漁民たちの思いは複雑だ。

 「仲裁裁判所の裁定? よく分からない」。崖州漁港の約230キロ東にある瓊海市の潭門漁港。網の手入れをしていた漁師の男性は素っ気なくつぶやいた。他の漁師も答えは同じ。「庶民が関心あるのは、自分や家族の衣食住について。政治にはあえて口を出さない。自分じゃどうしようもないから」。ガイドの男性が漁師の思いを代弁した。

 西沙諸島から戻ったばかりという中年の男性は「今、漁で食べていくのは難しい」とぼやいた。工芸品として人気の高い特産のシャコガイの捕獲が禁止され、収入が激減したという。

 シャコガイについては、中国漁船の乱獲が生態系を破壊していると欧米から批判が噴出。中国も規制に乗り出した。「政府は補助金を渡して漁に出ろと言うけど、シャコガイが捕れないと大したもうけにならない」と男性は嘆いた。

 南沙諸島での漁も最近、地元政府から止められたという。習国家主席は同諸島を巡って対立するフィリピンのドゥテルテ大統領に対し、多額の経済支援を約束。南沙問題は事実上、棚上げされた。「国同士の関係が悪くならないよう、今は制限しているんだろうけど…」。男性の顔には、政府に振り回される徒労感がにじんだ。

 ●リゾート地の隣に軍艦 三亜市

 三亜市中心部から25キロ東にある海南島有数のリゾート地、亜龍湾地区。高級ホテルが立ち並び、海水浴客でにぎわう約7キロの白い砂浜は、東端が立ち入り禁止となっていた。その先に見えるのは桟橋に縦列で停泊した3隻の軍艦。南シナ海進出を強める中国の軍事拠点だ。

 香港紙などによると、長さ約700メートルの埠頭(ふとう)があり、空母基地となっているという。山東省青島市を母港とする中国初配備の空母「遼寧」は昨年12月、沖縄本島と宮古島の間を通過し、初めて西太平洋に進出した後、三亜市の軍港に寄港した。

 習近平国家主席は11月のトランプ米大統領との首脳会談で「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」と改めて主張。西太平洋進出に意欲を示した。遼寧省大連市で建造されている中国初の国産空母は海南島を母港とするとの見方もある。海南島が太平洋を視野に入れた「海洋強国」建設の重要拠点であることは間違いない。

 ▼南シナ海問題 南沙諸島や西沙諸島とその周辺海域は石油や天然ガスなどの海底資源の存在が期待され、漁獲量も豊富だ。そのため、中国や台湾、ベトナム、フィリピンなどがそれぞれ独自に領有を主張している。

 中国は9本の境界線「九段線」を引いて南シナ海のほぼ全域の領有を主張。ベトナムとの交戦を経て、1974年に西沙諸島の全域を、88年に南沙諸島の主要箇所を実効支配した。90年代には南シナ海全域を自国領と明記する領海法を制定した。

 南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)支配を中国に奪われたフィリピンは2013年、国連海洋法条約に基づき仲裁裁判所に申し立てたが、習近平指導部は南沙諸島に人工島を整備するなど軍事拠点化を推進。仲裁裁判所は16年7月、南シナ海全域での主権を訴える中国の主張を否定したが、中国は無視している。

=2017/12/04付 西日本新聞朝刊=






コメントを残す